かた先生の 教えて先生 質問箱

Q30101

「尿失禁」なかなか止まらないのです。
~これがメス犬の避妊手術の欠点です~

メス(避妊手術済)8歳の中型犬、雑種です。
まだ「ボケが始まった」とは思っていないんのですが、もう一年半ぐらい前から、家で寝そべっている時や、睡眠中などに「おもらし」をするのです。散歩しているときには、「普通」にオシッコをします。立って歩いている時なども普通で、オシッコが陰部から垂れている様子はありません。
動物病院も半年位ずつ回って、今の所で三軒目です。原因もハッキリしませず、「オシッコもらし」も止まりません。もう「治る」ことをあきらめた方が良いのでしょうか?

北九州市 悩めるMKさん

とうとう来ましたね、この質問。いずれは来るだろうと思っている質問の中の代表作です。
私ども開業している獣医師にとって、こういった問題にはできるだけ触れたくない、また公表したくない問題です。しかしMKさん、貴方は本当にお悩みのこととお察し致します。
少々心当たりがあります。「請け負う」わけではありませんが、コントロールできる可能性はあると思いますので、諦めるのはまだ早いと思います。 さあ、その解説に入りましょう。

このお答えは、次の様な順に説明展開しております。

  1. 語句の説明 尿失禁とは?
  2. コントロールできる確率は、75%ある?
  3. 尿失禁は、避妊手術との関係がある?
  4. 尿失禁の発生率は?
  5. 手術方法でも、尿失禁発生率に差がある
  6. 手術方法を、選択するのは貴方です
  7. 再度申し上げます
  8. 最後に、誤解の無いように

語句の説明 尿失禁とは?

さて、動物が目を覚まし活動を開始し、歩行中のような状態のときには、「排尿自制」が保たれていて、休憩中あるいは眠っている間に、「尿がチョロチョロ漏れて出てくる」ような現象を、「尿失禁(にょうしっきん・・・・・排尿が意識とは関係なく起こること)」と言います。
この尿失禁は、神経系統(交感神経・副交感神経)支配やホルモン支配を含め複雑怪奇な現象でコントロールされていますので、治療にはなかなか困難を要します。

コントロールできる確率は、75%ある?

しかし、ある程度年齢の進んだ犬で、過去に避妊手術(特に卵巣と子宮を同時に摘出する手術)を受けたことがあって、貴方のワンちゃんのように休憩中または睡眠中に尿失禁を起こすケースでは、「75%ぐらいの確率」でその睡眠中を含む「安静時尿失禁」をコントロールすることが可能です。ですから、貴方のワンちゃんがその療法を受けられたのかどうかは、この文面からは判断できませんが、まだまだ「コントロールできない」と諦めるのは早いと思います。四軒目の先生でうまくいく可能性はあります。

尿失禁は、避妊手術との関係がある?

さて、貴方のワンちゃんのように、避妊手術を受けた後にこの種の「尿失禁」が発生する確率ですが、小型犬よりも中~大型犬により多くの発生を見ています。ちなみに、この「尿失禁」現象の発生について「避妊手術との関係の疑いがある」と、1991年に発表され、その5年後の1996年の国際獣医学会でも「重要な話題」として、世界中の獣医師に「メス犬の避妊手術の副作用」として問題提起されたんです。それで「かた先生」ごときでも、この問題を知っているのです。

尿失禁の発生率は?

特殊な方法を省いて、一般的に行われている避妊手術の方法としての術式(手術の方法)には、二種類あります。しかし、その術式の違いによっては、その後の壮齢、老齢に達したときの「尿失禁」の発生率に開きがあると報告されているのです。その発生率の開きは8~20%(平均15%)と言われています。またボクサー、ドーベルマンのような体重20Kg以上の大型犬方に多い傾向もあります。

手術方法でも、尿失禁発生率に差がある

その二種類の避妊手術の術式とは、「卵巣摘出術(卵巣を取り出す方法)」と「卵巣子宮摘出術(卵巣と子宮の両方を取り出す方法)」のことです。どちらの方法でも「避妊」の目的は達せられます。表面的な違いは、切開した傷口の大きさと、手術時間の違いぐらいで双方たいした違いはありません。
しかし、「卵巣摘出術」より、後者「卵巣子宮摘出術」で避妊手術を受けた犬の方が、はるかに多くの尿失禁症が後年に発生しているのですから重大です。
ところで、もう一つお話しておかなければならないのは、わが国では前者の「卵巣摘出術」を行う事を好む開業獣医師より、後者の「卵巣子宮摘出」を行う事を好む開業獣医師の方が多いのです。この点が私が始めに「この件は、あまり話したくない」と申し上げた所以であります。

手術の方法を、選択するのは貴方です

私は、特別な理由が無い限り「避妊手術の時には、子宮は取るべきでない」と、思っております。 またそのことが、このような後日(老後)の「尿失禁を患う犬の発生数の低下ができるはずだ」と信じています。そのことは数々のデーターから、この件に付いて説明されつつあります。その意味で私は、避妊手術の依頼を受けた場合には1996年国際獣医学会の勧告に従い「手術の方法三種類と後日の尿失禁の発生を含めたリスク」を飼い主さんに説明した上で、手術方法を選択していただいております。

再度申し上げます

再度申し上げます。メス犬が避妊手術を受けることで、老後に発生する可能性のある病気で「予防できる病気」としてまず挙がるのが「乳腺腫瘍」または「子宮蓄膿症」です。逆に、もし貴方のワンちゃんが避妊手術を受けなかったために、将来に「乳腺腫瘍」にかかる確率は、0.5%以下(動物病院の診療件数統計の中でも、1.1%)です。たとえそれを「子宮蓄膿症」にかかる確率に置き換えても、やはり0.5%以下(動物病院の診療件数統計の中でも、1.2%)です。しかし避妊手術を受ければ、将来「尿失禁」を発生させる確率は、手術の術式によりますが8~20%(平均15%)なのです。30倍も尿失禁が起こる確率が多いのですよ。
もちろん、避妊手術を受けることによるメリットは、他にも多々あります。(バックナンバー30801”去勢手術・避妊手術は「絶対」必要か?”を参照ください。)

最後に、誤解の無いように

「避妊手術を受けないほうが良い」と言っているのではありません。私の言おうとしている事は「メス犬が避妊手術を受けるのなら「卵巣摘出手術」を受けるべきで、「卵巣子宮摘出手術」は避けたほうが良いと言っているのです。
少しでも、貴方のワンちゃんの様な後年において「尿失禁」を患う犬の数を少なくするために申し上げておきます。ちなみに貴方の御質問のケースでは、治療「コントロール」できる可能性が高いので諦めないで下さいね。
かた先生からも「がんばれコール」を出しておきます。

かた先生

日頃の疑問、質問にお答えしているコーナーです。
お手紙でご質問いただいた内容について、私はこういうふうに考えて(独断と偏見?)、日常の解説に当たっております。

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